オジュウチョウサンの『正夢』
また、障害を使って平地に戻して活躍した馬として有名なのが1994年の宝塚記念・有馬記念の春秋グランプリを制覇したメジロパーマー(未勝利1着、400万下2着)がおり、その後、平地馬の調整方法として知られるようになります(もちろん、それ以前でも障害コースを使用しての調教はあったのかもしれません)。
現在の格付けからいうと、オジュウチョウサンの場合は500万下条件からのスタートになるので、7月の福島・開成山特別(芝2,600m)から平地競走へのリスタートが始まったわけです。ここを快勝した後のステップに選んだのは、中山・九十九里特別(芝2,500m)という有馬記念と同条件コースのレースでしたが、調整に狂いがあり出走を延期。本来なら500万下条件をもう一走できるはずでしたが、条件に見合うレースとして選んだのは1000万下の南武特別(芝2,400m)でした。
一口馬主の経験から、クラスが上がることの大変さはよくわかります。
500万下から1000万下への昇級は余程の力がない限り、トントンとステップアップするのは難しい。ましてやその先の準オープン、オープンとなれば尚更です。G1レースはいわば「怪物」同士の戦いとも言えるのです。
オジュウチョウサンはジャンプレースでの格付けはトップ、G1・5勝馬として君臨したわけですが、平地となれば話は変わってきます。かつての名ジャンパーたちも平地はあくまでも調整過程、目標はJ・G1レースですから今回のケースというのはほぼ初めてというべきでしょう。
現在、2016年の中山GJ優勝以来、前走の南武特別まで11連勝。
この記録が果たして、今回の有馬記念で伸びるのか?
手綱を取った武豊騎手は、前走後のコメントでG1での戦いとなると時計的には厳しい、とおっしゃってはいましたが、馬自身の能力には感じるところがあったようです。この馬が平地をこなすことが出来た理由として考えられるのは、もちろん障害レースで鍛えられた力にあるでしょうが、武騎手がおっしゃっていた「この低いフォームでよく障害を飛べていた」という点にあると私は思います。
沈み込むようなフォームに500kgを超える馬体。体全体をグッと伸ばして推進力を得るフォームに感じます。瞬発力は未知数、もちろん斬れる脚というようなタイプにも見えないので、現代のG1レースでは通用するには疑問符を打たねばならないのが、データであり経験値による「常識」かもしれません。しかし、3,000mクラスの距離で常にライバルと戦ってきたレースの経験は、どの馬にも負けないスタミナを鍛えてきたのだろうと思うのです。
4,000mを超えてもなお鋭く伸びる末脚。この時点で常識をはるかに超えているのかもしれません。
持ちタイムはその馬の限界の指標という捉え方もできますが、タイムが遅いからだめ、レコードを何回も叩き出すから強い、という訳ではないことは多くの皆さんがご存知のはずです。殊に有馬記念というレースは人知を超えた結末を迎えるレースである、これもまた事実です。
長山オーナーがおっしゃる「お金じゃないロマン」を見せてくれる、そういうワクワク感があるからこそ、ファン投票10万票超えに表れているのだと思うのです。競馬というゲームは、もちろんお金を賭け、勝ち馬を当てるという推理が面白い。しかし、馬券を買うことで、どの馬が勝つのか?をいろんなデータ、経験値を駆使して研究していくうちに、サラブレッドの運命というものに惹かれていっているのではないか?と思うのです。血統を辿ればたどるほど、過去の名馬にたどり着き、その血脈が川の流れのように現代へと続いている。その先の大河の果ては計り知れないロマンに満ち溢れているのです。
だからこそ、お金でないロマン、というフレーズがしっくりとくるのでしょう。
有馬記念はファンの夢が詰まった一年の総決算。
単なる賭け事に止まらないパワーが、有馬記念というレースにはあるのです。
常識を超えた先の栄光に、オジュウチョウサンがいる。
そういう夢を一生に一度くらいは味わってみたいものです。
◉ オジュウチョウサン(全てのオジュウチョウサンとともに夢をみる人々に捧げる)。
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