『この世界の片隅に』
こうの史代さんが描かれた『この世界の片隅に』が映画化。
『夕凪の街、桜の国』などの作者でも知られるこうのさんの絵のタッチが好きで、書店に積まれていたこの作品を読んだのが、実はきっかけだったのです。
アニメーションによる映画の前にも、テレビドラマ化された作品だったそうです。
原作が映画化される場合は、どうしても映像化による作品のズレが気になるところです。もちろん、尺が限られているからこそ、そこに物語をどう凝縮するか、原作の良さをいかに表現し、伝えるか、などなど、作り手の思いが現れます。キャスティング、音楽なども影響が大きいですから、映像化の難しさを感じます。
クラウドファンディングを活用しての映画作成にも注目が集まりましたし、公開前から反響は少なからずあったことでしょう。
が、
これほどまでに、話題性に富み、評判をよんでいる作品もなかなかないように思います。
アニメ化されて話題になった新海誠さんの『君の名は。』が、シン・ゴジラとともに日本映画の今年の話題作であったのに、上映館数もそれほど多くない『この世界の片隅に』がそれに比肩する勢いであることは間違いないでしょう。
主人公・北條(浦野)すず、を演じたのが『のん』さん。あまちゃんで一世を風靡した彼女が、ここまでマイペースなすずにハマり役だったとは驚きもあるし、ある意味、彼女ならではの声優ぶりなのかもしれません。
とかく、戦時中や戦争を題材にした作品は、戦争の悲惨さ、時代や世相の大変さ、苦労、悲哀を描くものが多く、あまりハッピーエンドで終わるものではありません。秀作も多く、次代まで語り継がれる作品も数多ですが、この作品は、戦時中の普通の家庭、広島や呉に生きた人々の日常が自然と描かれています。時代の背景から、生活の厳しさなども描かれてはいるものの、逞しいというか、変わらぬ営みを守っている人間の暮らしを、すずたちを通して伝わってくる気がします。
もちろん、時間が進むにつれ、日本の敗色が色濃くなり、すずたち家族にも影を落とすのですが、その時代のなかで生き抜いた人々と戦争との距離感を考えさせられる感じも私はしました。
なぜ戦争をしてはいけないのか?
なぜ戦争はなけならないのか?
史実から分析しながら、歴史の観点で考えることもあるでしょうし、自分たちの家族や周りの方々から伝え聞いたことをもとに思うこともあるでしょう。
私が強く思ったのは、日常の幸せが奪われることが戦争である、ていうことです。何気ない暮らしを突如として乱され、我慢をし、価値観を否定されて生きなければならない、それが戦争なのだと思うのです。
国同士の利権争い、自国の正義への過大な干渉と、脅威など、一般論としての戦争を語れば、おそらく解決の答えは見つからないでしょうし、答えなどないのかもしれません。あれだけ酷い戦争があったにもかかわらず、今でも地球上のどこかでは、戦争が起きているのですから、戦争を無くす、というのはもしかしたら半永久的に無理なのかもしれません。
ただ、戦争を止めること、やめることは人間の力で出来ると信じたいです。
その希望を、この作品が伝えているように私は強く思います。
是非、原作も含めてご覧いただきたい作品です。
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